「五七五七七 並べてみても 何か違う
心の形 まだ見つからず」
短歌を詠もうとノートに向かった私の手は、何度も止まりました。
子どもたちが新しいことを避け、「できない」と言い続ける姿に、親としてどう関わればいいのか分からなかったあの夏。
答えを探すように、私は毎日短歌を詠み始めました。
うまく詠めなくてもいい。ただ、挑戦する姿を見せたかった。
すると不思議なことに、拙い五七五七七をめぐって子どもたちとの会話が生まれ、「おかあさんも失敗してるんだ」という安心感が家族に広がっていったのです。
挑戦することが日常になり、子どもたちは少しずつ「やってみようかな」と言うようになりました。
「子どもに『挑戦しなさい』と言っても響かない。むしろ、萎縮させてしまう気がする…」 そんなジレンマに陥っていませんか?
本記事では、完璧を手放して”挑戦する背中”を見せ続けた日々を、6つの具体的なステップでご紹介します。
悩み、立ち止まり、それでも前に進んだ一家族のリアルな記録です。
今日からあなたの家庭でも始められる、小さな変化の物語をお届けします。
筆者プロフィール
40年間、大都市近郊の小学校5校で約4000人の児童と向き合ってきた元小学校教諭。
教育相談担当として5年間、不登校や生活リズムの問題など年間約30件のケースに寄り添い、子どもと保護者の心に深く関わる。
PTA担当の3年間では、多くの保護者の悩みや喜びを共有。
夫も小学校教員という共働き家庭で2児を育てた経験から、「忙しい親だからこそできる子育て」を実践と教育現場の両面から伝える。
ステップ1:「誰もができる小さな一歩」を親が宣言する
私はある夏、短歌を毎日詠むという小さな目標を掲げてみました。
普段は短歌とは無縁の私ですが、あえて未知の世界に一歩踏み出したのです。
水彩画でも料理でもなく、あえて短歌を選んだのには理由があります。
それは、道具が要らず、その瞬間の感情や日常を切り取ってすぐに『成果』にできる手軽さと、五七五七七という『制約』があるからこそ、逆に試行錯誤が生まれやすいと考えたからです。
また、小学校教諭として、言葉の力、表現することの重要性を日々感じていたということもあります。
最初は五七五七七に言葉をはめる難しさに悪戦苦闘。
3日坊主になりそうな瞬間もありましたが、とにかく「挑戦することそのもの」を子どもたちに見せ続けることを意識。

うまくいかない…。無理かも。いや、頑張る姿を子どもに見せたい…!
すると、子どもたちから「やってみたい!」という声が上がるようになり、どんどん家族時間が充実していきました。

お母さん、何してるの?

僕も作ってみたい!

私も参加していい?
親が、特別な才能や環境がなくても、まず小さなことからやってみる姿を見せることが、子どもには一番大きな刺激になる。それがあらためて感じた気づきです。

小さい目標は成功につながりやすく、万が一失敗しても、立ち直りやすいです。

子どもが、「親ができたのだから自分にもできるかもしれない」という代理的経験をすることで、自分も目標を達成できると信じる力が高まります。
ステップ2:失敗や苦悩を正直に「実況中継」する
親だからといって完璧じゃなくていいし、時には失敗して落ち込む姿も見せてOK。
このことは今回一番大きな発見でした。正直な気持ちを口に出すと、子どもが褒めてくれたり、励ましてくれたり。

今日はピンとくるものができなかったな。

でも頑張ったよね。

また一緒に考えよう!
一人で抱えず、努力やトライの過程を隠さず分かち合うことで、家庭が“頑張ることが当たり前で楽しい”空間に変わっていくのです。

学校でも、自分の失敗を正直に謝る先生は子どもたちの信頼を集めます。
ステップ3:「結果より過程」を可視化し、家族で爆笑する
夏の食卓で料理を失敗し、家族で笑いあったエピソードも短歌のネタに変えたり、結果の善し悪しにこだわらず、形にならない「思い出の断片」も積極的に記録。

あっ!しまった!入れすぎた!

うぉっ!辛いな~。どうしたの?

次はリベンジするから!

僕、味見するよ!

わたしもお手伝いする!

よし!1首できたぞ!
「豆板醤 まちがえ辛き 中華鍋 家族の笑顔 絆深めり」
進捗が可視化できるように、作品をノートに貼ったり、テーマごとに色シールを使ったり、「食」にまつわる歌ばかりの日は親子で爆笑したり。

6ジャンルに分けて色付箋を貼った俳句ノート

「今月は5首完成」「食べ物の歌が増えた」など小さな変化を可視化することで、創作への意欲が続きます。
心理学の研究でも、達成感は小さな変化を認識することで強化されるとされています。
大人がプロセスを心底楽しむ姿は、子どもの「自分を知る力」や「自分をコントロールする力」を自然と育ててくれます。
困難があっても笑顔で乗り越える様子は、将来子どもが逆境に立ち向かう力の土台となるはずです。

教員時代、夏休みの自由研究で完璧な作品を提出する子より、失敗したノートや試行錯誤のプロセスも添えて提出した子のほうが、次の学年での主体性が高かったことを覚えています。結果だけでなく、プロセスを楽しむこと、小さな進歩を認めることで、*達成概念(何かを達成しようとする気持ち。)が強固になります。
*心理学者デビッド・マクレランドが提唱
ステップ4: 家族で「言葉」を壁打ち!親子の共鳴が創造力を刺激する
「今日の単語は何にしよう?」といったアイデア出しを家族みんなで日課にし、壁打ちし合うだけで親子のコミュニケーションが倍増。
「青空」「向日葵」など、子どもの視点に触れる機会が増え、夫も便乗して新しい“言葉遊び”に挑戦する流れができました。

今日はなかなかいい言葉が思い浮かばなくて四苦八苦したよ。

『青い空』って言葉はどうかな?

私なら『向日葵』を使ってみたい。

俺も川柳に挑戦してみようかな。
大人が率直に苦しみも語り合い、日々の気づきを分かち合うことで、みんなの挑戦心や創造力が刺激され、「次は自分も何かやってみたい」というエネルギーが自然に循環する空気が生まれます。

子どもたちの『青空』や『向日葵』といった言葉選びに触れることで、教師として忘れていた子どもの視点の豊かさを再認識できました。
短歌が、ただの作品作りではなく、家族の感受性を分かち合うツールになったのです。

共通の活動を通じて「つながり」を感じることは、家族の一体感(家族凝集性)を高め、各メンバーの幸福感や精神的な安定につながるとされています。
ステップ5: 挑戦をイベントで終わらせない:「家族の応援」で習慣化する
継続が苦しい時こそ、家族の声や姿を受け入れることで頑張れた自分がいます。
その結果、毎日のルーティンとして短歌を続け、自然とみんなが応援団に。

もう続けるのは厳しいかも。

おかあさんの短歌、毎日読むのが楽しみなんだ。

新しいのができるのをワクワクして待ってる!。

学校でも、三日坊主になる子は、目標を誰にも話さない傾向があります。

短歌をあえて家族に見せていたことで、私も無意識のうちに『続ける』ための環境を作っていました。
小さな挑戦を単発イベントで終わらせず、日常リズムの中に上手に組み込むことで“継続の壁”も乗り越えやすくなりました。
何かに取り組むことは一人で背負い込むより、習慣として定着させて周囲に見守られながら続ける方がずっと楽になります。
「日々の積み重ねが、挑戦する力そのものになる」…これを家族みんなで実感できた夏となりました。
ステップ6: 「次の宣言」でサイクルを回す!親の挑戦で子どもの目標を加速させる
振り返りの時間を作り、「今度はこんなこともしてみたいね!」と自由に語り合うのがわが家の恒例になりました。
親の次の挑戦宣言がきっかけで、子どもたちも自分の新しい目標を言葉にするように。

今度は俳句にも挑戦してみようかな。

僕もリフティング10回以上に挑戦しようかな。

私も昆虫採集に挑戦したい!
私の短歌のプロセスを見て、それまで何事にも消極的だった娘が、『失敗してもいいから、みんながやらないことに挑戦したい』と、昆虫採集を始めました。
行動のサイクルが家族全体で続いていくことで、“挑戦は特別な時だけのものではなく、毎日の中にある自分らしい習慣”へと変わっていきます。

大人が取り組みを振り返って新たな目標を設定する姿は、子どもに「行動は一回きりではなく、ずっと続いていくものなんだ」という大切な気づきを与えてくれます。
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まとめ:親の挑戦が子どもを育てる。夏休みはその絶好のチャンス
親が挑戦する姿を見せることは、子どもに「挑戦は特別なことではなく、日常の中にあるもの」と伝える最良の方法です。
大切なのは華々しい成果ではなく、挑戦する姿勢そのもの。
小さな挑戦を決めてオープンに見せ、過程を楽しみ、言葉で共有し、習慣にして振り返る。
この流れを親が実践することで、子どもは自然に「挑戦する力」を身につけます。
その力は将来、困難に直面した時に前向きに立ち向かう勇気となり、学び続ける燃料となって子どもの人生を支えてくれるでしょう。
ちなみに、その後も私は小さな挑戦を続けてきました。
毎日必ず1万歩歩く、毎日ひとつ編んだモチーフをつなげて膝掛けを作るなど、どれも日常の中にあるたわいもないものですが、「やってみよう!」という好奇心と意欲は62歳の今も枯れることがありません。
夏休みは親にとっても新たな挑戦を始める絶好の機会です。
自分自身の挑戦を通して子どもに生きる力を届けると同時に、自分の人生も豊かにしていきませんか。
「書くことが 私を変えて 家を変え
 今日も笑顔で 一句できたり」
 
  
  
  
  

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