【元小学校教諭が教える】家庭で完結するキャリア教育5ステップ:子どもの「働く力」と「夢」を育む実践ガイド 第1回
「お母さん、働くって何?」息子が小学3年生の時に突然投げかけたこの質問に、私は一瞬言葉に詰まりました。
小学校教員として長年子どもたちと接してきた私でも、わが子から改めて聞かれると、どう答えるのがベストなのか悩んだのです。
働くことについて考える機会は、子どもの将来への第一歩です。
特に夏休みは、普段の学校生活から離れて時間にゆとりがあり、親子でじっくりと話し合ったり、様々な体験をしたりする絶好のチャンスです。
地域のお祭りの手伝いや家族旅行での観察、おじいちゃんおばあちゃんの仕事の話を聞くなど、”働く”について身近に感じられる機会がたくさんあります。
でも、「お金をもらうため」「大人がやること」といった表面的な理解だけでは、働くことの本当の価値や意味は伝わりません。
家庭での日常的な会話や小さな体験を通して、子どもが働くことの本質を理解できるように導いていくことが大切なのです。
このシリーズでは、元小学校教員で二児の母である私の経験をもとに、5回にわたって家庭でできるキャリア教育の方法をお伝えします。
今回は基礎となる「働くことの意味」について、次回からは具体的な実践方法へと発展していきます。
筆者プロフィール
40年間、大都市近郊の小学校5校で約4000人の児童と向き合ってきた元小学校教諭。
教育相談担当として5年間、不登校や生活リズムの問題など年間約30件のケースに寄り添い、子どもと保護者の心に深く関わる。
PTA担当の3年間では、多くの保護者の悩みや喜びを共有。
夫も小学校教員という共働き家庭で2児を育てた経験から、「忙しい親だからこそできる子育て」を実践と教育現場の両面から伝える。
【教師が教える】仕事の価値を子どもに響かせる「たった一つの伝え方」
働くことは、単にお金を得るためだけの活動ではありません。
人の役に立つ、自分の持っている力を使う、学んだことを社会で活かすなど、もっと豊かな意味があります。
教員時代、私は子どもたちにこんな話をよくしていました。

コンビニで働く人は、レジでお金をもらうだけが仕事じゃないよ。お客さんが気持ちよく買い物できるように商品を整理したり、困っている人に道を教えたり、いろんなことで人を助けているんだよ。
すると子どもたちは「そうか、働くって人を助けることなんだ!」と目を輝かせて言うのです。
家庭でも身近な例をあげて働くことの意味を伝えていました。

おかあさん、なんで先生になったの?

子どもたちが『できた!』って嬉しそうな顔を見るのが大好きだからだよ。

私も誰かを喜ばせる仕事がしたい!

意気込んで話す必要はなく、何気ない普段の会話が、「働くことは人を喜ばせること」という価値観を子どもの心の中に与えていくのです。
お手伝いは最高の職業体験!「働く喜び」を教える家庭での実践ステップ
息子が小学2年生の頃、夕食後の食器洗いを任せることにしました。
最初は水遊び感覚でしたが、だんだん「家族のためにきれいにしよう」という気持ちが芽生えてきました。

今日は泡がたくさん出て、お皿がピカピカになった!

ありがとう。きれいなお皿で明日の朝ごはんが食べられるね。
息子は誇らしそうな笑顔を見せてくれました。
また、娘には洗濯物をたたむお手伝いをお願いしました。
一緒に考えながら進めていると、娘が自分なりの発見をします。

どうやったらきれいにたためるかな?

こうするとシワにならない!

すごい発見だね!これで家族みんなが気持ちよく着られるね!

家庭内での簡単なお手伝いは、働くことを体験する最初のステップ。こうした日常の小さな体験が、子どもたちに働くことの本当の意味を教えてくれます。
体験のポイント
- 結果だけでなく、過程での工夫や努力を認める
- 「誰のために」「どんな役に立つのか」を具体的に伝える
- 失敗しても一緒に解決策を考える
「なぜ働くの?」を解決!【6・9・11歳別】親の正しい回答例と会話術
わが家では子どもからの素直な疑問には、年齢に応じて答えを変えていました。
[6~8歳の頃の会話]

おかあさんはなんでお仕事してるの?

家族がごはんを食べたり、お洋服を買ったり、このお家に住むためにはお金が必要なの。お母さんはお仕事をしてそのお金をもらっているんだよ。

そうなんだ!お仕事って大切なんだね。
[9~10歳の頃の会話]

どうして世の中にはいろんなお仕事があるの?

みんなが困らないように、いろんな人がいろんなお仕事をしているからだよ。パン屋さんがいるから美味しいパンが食べられるし、大工さんがいるから家に住めるでしょう?

なるほど!みんなでお手伝いしあってるんだね。
[11~12歳の頃の会話]

僕は将来どんな仕事をしたらいいの?

自分の得意なことや好きなことで、みんなに喜んでもらえるのが働くことの楽しさなんだよ。あなたの得意なことって何だと思う?

レゴで作るのが好きだし、絵を描くのも得意かな。

それなら、その力でいつか素敵なものを作って、みんなを驚かせることができるかもしれないね。

このように、子どもの成長に合わせて働くことの意味を段階的に伝えることで、将来への興味や関心を自然に育てていくことができます。
将来の夢を育む!夕食の会話で「親の仕事」をキャリア教育につなげるコツ
日常の中で働くことについて話し合う習慣を作ることも重要です。
でも、堅苦しい話し合いではなく、自然な会話の中で触れていけばよいのです。
わが家では夕食の準備をしながら「今日は誰かのために頑張ったことある?」と聞くようにしています。

友達が困っていたから消しゴムを貸してあげた。

給食の配膳を手伝った。

人の役に立つことをしたんだね。嬉しかった?

友達が『ありがとう』って言ってくれて嬉しかった。
また、私自身の体験も年齢に応じて話すようにしています。

今日は仕事で困ったことがあったけど、みんなで協力して解決できたの。チームワークって大切だね。

おかあさんも誰かと協力してるんだね。

僕たちも家族みんなで協力してるよね。

こうした会話の積み重ねが、問題解決や協力の大切さを自然に伝えることにつながっていきます。
効果的な話し合いのコツ
- 子どもの話を最後まで聞く
- 「すごいね」「よく気づいたね」と認める言葉をかける
- 「どんな気持ちだった?」と感情に共感する
- 「次はどうしたいか」未来への希望を聞く
「非認知能力」が爆伸び!働く意味の理解がもたらす子どもの成長
働くことの意味を理解することは、将来の夢を考える大切な土台になります。
まだ具体的な職業を決める必要はありませんが、「人の役に立ちたい」「自分の好きなことを活かしたい」といった価値観を育てることが重要です。

ケーキ屋さんになりたい!

どうしてケーキ屋さんなの?

みんなが美味しそうに食べているのを見ると嬉しいから。

人を喜ばせることが好きなんだね。それって素敵な気持ちだね。
職業そのものより、その奥にある「人を喜ばせたい」という気持ちを大切にしたいと思いました。

ロボットを作る人になりたい。

どんなロボット?

お年寄りの人を助けるロボット!
そこで一緒に図書館でロボットの本を借りて読んだり、簡単な工作でロボットを作ったりして、興味をがひろがるようにしました。

こうした体験を通して、子どもたちの中にある「誰かの役に立ちたい」という気持ちを育てていくことができるのです。
SEL教育も同時に実現!お手伝いで身につく「社会性」と「問題解決力」
家庭でのキャリア教育は、日常生活の中で自然に実践できます。
特別な準備は必要なく、普段の生活で少し意識を変えるだけで、子どもたちに働くことの意味や価値を伝えることができます。
畑で採れた野菜をおすそ分けしていただいた近所のお年寄りの方に、お礼に手作りクッキーを持参する時のことです。

おばあちゃんはどんなクッキーが好きかな?

甘すぎない方がいいかな?

相手のことを思いやる気持ちが大切だね。おばあちゃんがどんな人か思い出してみて。

いつもお花の話をしてくれるから、お花の形にしよう。

私は包装を可愛くしてあげる。

メッセージを添えたお礼
クッキーを渡しに行く時には、渡し方も一緒に考えました。

どうやって渡したら喜んでもらえるかな?

こんにちは、いつもありがとうございます。心を込めて作りました。
おばあちゃんがとても喜んでくださった時、子どもたちは満足そうでした。

人を喜ばせるって嬉しいね!!

私たちの仕事は、家族や周りの人が困らないように、みんなが笑顔になれるようにお手伝いすることなんだよ。
こうした体験から子どもたちは働くことの本当の意味を自然に理解していくのです。

家庭でのお手伝いや地域との交流は、将来どんな職業に就いても必要な基礎的な能力を無理なく身につけることができる貴重な機会です。そしてこれらの経験は、SELの5つの力も同時に育てることができます。
日常のお手伝いで身につくSEL
- 自己認識の力:お手伝いを通して「自分にはこんなことができる」と気づく
- 自己管理の力:責任を持って最後まで取り組む経験を積む
- 社会的認識の力:家族や周りの人の気持ちを考える
- 対人関係スキル:協力して作業することで相手との関わり方を学ぶ
- 責任ある意思決定の力:「どうしたら上手くできるか」を考える習慣をつける
まとめ:次のステップへ
働くことの意味を理解することから、家庭でのキャリア教育は始まります。
お金をもらうためだけでなく、人の役に立つ喜び、自分の力を活かす楽しさ、みんなで協力する大切さなど、働くことの豊かな意味を子どもに伝えていきましょう。
今日からできること
- 子どもに簡単なお手伝いをお願いしてみる
- 「ありがとう、助かったよ」と具体的に感謝を伝える
- 「今日は誰かのために何かした?」と聞いてみる
- 親自身の仕事の話を分かりやすく話してみる
家庭での小さな体験や日常的な会話が、子どもの価値観を育て、将来への夢や目標を考える土台になります。
完璧である必要はありません。親も一緒に楽しみながら、働くことについて考える時間を作ってみてください。
次回は、この基礎理解を踏まえて、「親の仕事を子どもにどう伝えるか」について具体的な方法をお伝えします。お楽しみに!
働くことの意味が分かったら、次は親自身の仕事について子どもに分かりやすく伝える方法を学びましょう。


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