40年教員経験が教える!親子の信頼関係を深める5つの会話の工夫

親子コミュニケーション術

親子の信頼関係とは、一朝一夕で築かれるものではありません。けれど、日々のちょっとしたやりとりを積み重ねていくうちに、子どもの心に確かな安心感が育ちます。

私はこれまで40年以上にわたって小学校の教員を務め、多くの子どもたちと接してきました。その経験と自身の子育てを通じて、「家庭での会話」の重要性を何度も実感してきました。

夏休みは親子で過ごす時間が長くなる分、つい言い過ぎてしまったり、会話がかみ合わずに悩むことも多い時期です。でも、そんな時だからこそ、ほんの少し会話の取り方を工夫するだけで、親子の絆はぐっと深まるのです。

子どもは「話を聴いてもらえた経験」で深く安心する

ある日、私のクラスの3年生の男の子が私の元に来て、ぽつりと言いました。「昨日ね、お母さんが夕飯の時ずっとスマホを見てて、ぼくの話を最後まで聞いてくれなかったんだ。」彼の声には本当に寂しい気持ちがこもっていました。

私はすぐに「それは残念だったね。でもね、もしよければ、その恐竜の絵のことを先生にも教えてくれない?」と尋ねました。すると彼は、目をキラキラ輝かせながら、色塗りの工夫や恐竜の特徴、見てほしいポイントまで細かく説明し始めました。

話し終えた後の満足そうな笑顔は、「ちゃんと話を聴いてもらえた」という実感の現れでした。

まさこ先生
まさこ先生

工作や自由研究といった、自分のアイデアを形にしたものは、子どもにとって「自分らしさの証」です。思いや努力を受け止めてあげましょう!

私自身も、子育てと仕事を両立していた頃、つい忙しさにかまけて「ながら聞き」になってしまい、子どもの反応が薄くなって悩むことがありました。

ある時、夕飯後の短い10分間を意識的に「話を聴く時間」として確保し、スマホやテレビのスイッチを切り、子どもの目をじっと見て話を聞くことを始めました。

すると、子どもも安心して話し始め、彼の表情が明るくなっていくのがわかりました。

この経験からわかったのは、子どもにとって大切なのは「話の中身」だけでなく、「親が真剣に耳を傾けている」という姿勢そのものだということです。

たった5分でも「目を見て」「うなずいて」「最後まで話を聴く」時間を毎日つくるだけで、子どもの自己肯定感は驚くほどに高まります。

子どもの話を聴くときは次のポイントを意識してみてください。

・目を見る
目線を合わせることで「あなたに集中しているよ」というメッセージが伝わります。
・しっかりとうなづく
言葉にしづらい気持ちも、「わかってるよ」と応える姿勢が安心感につながります。
・話をさえぎらない
途中で意見を挟まず、最後まで語らせることで、子どもは自分の存在を尊重されていると感じます。

叱るよりも「気持ちを代弁する」ことが子どもの心に響く

ある4年生の女の子が、授業中にふてくされた様子を見せていたことがありました。授業後、その子に声をかけると、ぽつりと「昨日、お父さんに『なんでこんなこともできないんだ』と怒られて悲しかった」と話してくれました。

なんでこんなこともできないんだ!

私はその時、「本当に悲しかったんだね。きっと一生懸命頑張ったのに気持ちが伝わらなかったんだね」と、彼女の気持ちそのものを言葉にして返しました。

すると彼女は「先生、わかってくれるんだ」と涙をこぼしました。

私は目を合わせながら、静かに言葉を添えました。

子どもは自分の心の内を上手く言えないことが多いものです。だからこそ、親が子どもの気持ちを代わりに言葉にしてあげることが、子どもの心を軽くし、安心させるのです。

まさこ先生
まさこ先生

失敗した時ほど、「だいじょうぶ」と言ってほしいもの。子どもの心の奥にある思いを言葉にしてあげることで信頼関係が築けます。

「正解」を押し付けずに、子どもの考えを引き出す対話法

授業中、「友だちがルールを破ったらどうする?」と問いかけたとき、ある高学年の男の子が「言いたくない。嫌われるから」と答えました。

そこで私は、「どうしてそう思うのかな?」「他にどんな方法があると思う?」と、彼の意見を深堀りする質問を続けました。

話を聞くうちに彼は「先生に相談するのもいいかもしれない。みんなでルールを守れるように誘ってみるのもいいかな」と、自分で解決策を導き出しました。

家庭でも、親が最初から正解や正論を押し付けずに、「あなたはどう思う?」「他にどんな方法があると思う?」と問いかけることで、子どもは自分で考え、主体的に問題を解決する力が育ちます。

まさこ先生
まさこ先生

遠回りしたり、まちがったりすることで、子ども自身の「経験」になり、思考力や想像力などの「生きる力」を身につけていくのです。

失敗を一緒に笑って乗り越える親子関係

5年生の女の子が給食で牛乳をこぼし、顔を真っ赤にして周囲の目を気にしていました。私は「給食の時間に牛乳をこぼすのは誰だって一度はやることだから大丈夫だよ」と笑いながら言い、みんなで一緒に拭き掃除をしました。

すると彼女も気持ちがほぐれ、「またやっちゃった!」と屈託なく笑うようになりました。

家でも、失敗を責めるのではなく笑って乗り越える姿勢を持つことが大切です。「失敗」とは「過ち」ではなく、自分の成長を支える経験であり、価値のあることだということを、大人が態度で示していくことが求められます。

まさこ先生
まさこ先生

お子さんが失敗した時は、「挑戦してくれてありがとう」と伝えてみてください。子どもの心にとっては何よりの応援になります。

親子で「気持ちを伝える習慣」を作る

 

私は担任していた6年生のクラスで、「今日の気分スケール」という10段階の気持ちの数値を表す活動を毎朝していました。最初は恥ずかしがっていた子も次第に、「今日は7!給食のカレーが美味しかったから!」「今日は3…弟とケンカして嫌だった」と自然に気持ちを話せるようになりました。

ある保護者は「夕飯時に家でもやってみたら、普段あまり話さない娘が『今日は6かな。友達にちょっと嫌なことを言われたけど、家で読書できたから』と話してくれてびっくりしました」と話してくださいました。

このように親が子どもの心の状態に関心を持ち、気持ちの共有を日常にすることで、子どもは自分の感情を大事に感じられるようになります。

まさこ先生
まさこ先生

言葉ではうまく感情をあらわせなくても、数字を使って表現することでハードルが下がり、気持ちの見える化がしやすくなります。

まとめ:親子の信頼関係は「日常のひとこと」から

親子の信頼関係が築かれるのは、一瞬でなく毎日の積み重ねです。

・話の途中でさえぎらずに最後までじっくり聴くこと
・子どもの気持ちを代弁して共感を示すこと
・こちらの「正しさ」を押しつけずに子どもの考えを引き出すこと
・失敗を責めず、笑いに変えて一緒に乗り越えること
・毎日気持ちを共有する小さな習慣を作ること

これらが子どもの心を安心させ、親との信頼関係を深めていきます。

40年にわたる教育現場で多くの子どもたちから教わったのは、「親の言葉がけ一つで、子どもはこんなにも大きく変わる」という事実です。

ぜひ今日から、子どもの目を見てゆっくりと話を聴くことを始めてみてください。それが親子の信頼関係を深める小さくも大切な第一歩になることでしょう。

コメント