この記事は、小学生の子どもを育てる保護者に向けて、元小学校教員として40年間、子どもと保護者に向き合ってきた経験をもとに、家庭で実践できる、多忙なお父さんにも取り組める、子どもの非認知能力を伸ばすアプローチをご紹介します
教員として40年間、多くのお父さんから「子どもへの接し方に迷っている」という相談を受けてきました。
実は私の夫も同じ悩みを抱えており、どんな話題を選べばいいのか、遊びをどう展開すればいいのかがつかめず、戸惑っていた時期があります。
それが、無理をせず短時間でも向き合う姿勢を保ち続けたところ、親子の絆は確実に深まっていきました。
この記事で紹介する内容は、「親子コミュニケーション」の考え方の一部です。親子の関わり方全体の視点については、こちらの記事で詳しくまとめています。
→ 子どもが本音を話してくれる!“心を開く聴き方と問いかけ”完全ガイド
父親が関わりにくさを感じる理由と、わが家の小さな転機
別に子どもが苦手というわけではないものの、なんとなく心の距離を感じるお父さんは珍しくありません。
夫の場合も、朝晩の挨拶以外はあまり自発的に声をかけない日々が続いていました。
昭和時代の家庭のあり方しか参考にできず、実際にどんな話をしてどう関わればいいか具体的なイメージが湧かなかったと、あとで明かしてくれました。
そんな夫の心を動かしたのは、息子のある言葉です。
「おとうさんは家事は手伝うけど、僕たちとあまり遊んでくれないよね」——この一言で、自分では関わっているつもりでも子どもの目には違って映っていると理解したようです。
そこから夫は、「短時間でも必ず子どもと向き合う時間をつくる」ことを心がけました。
折り紙をしたり、ソファで雑談するだけの日もありましたが、こうした何気ない時間が徐々に関係を変化させ、息子も学校や友人関係のことを夫に話すようになりました。
“どんな活動をしたか”以上に、”おとうさんと笑い合えた”経験が、距離を縮めたのだと実感しています。
教育の視点から見る“父親の関わり”が子どもの心に与える力
学校で子どもたちを観察していると、成長が著しい子にはある共通点が見られます。
疑問を率直に質問できる素直さ、自分の感情を言語化する能力、失敗から学び直そうとする忍耐力がしっかり育っているのです。これらを総称して「非認知能力」と言います。
非認知能力は、教材や学習ツールのみで培われるものではありません。日常の家庭内での自然なやりとり、とりわけ親子の対話や共同作業の中で育まれていきます。
折り紙を一緒に作りながら「前より丁寧になってきたね」と成長過程に目を向けることは、自己効力感の形成につながります。
キャッチボールでミスをしたときに、失敗を軽く受け流して「もう一度やってみよう!」と励ます態度は、「失敗は許される」というメッセージを伝えます。
また、心理学の分野では「心理的安全性」という概念があります。
これは「この人には素直に話せる」「失敗しても受け入れてもらえる」と思える関係性を指します。
家庭内で心理的安全性が確保されている子どもは、学校でも恐れず自分の意見を述べ、困難に直面した際は早い段階で助けを求められるようになります。
父親は子どもにとって特別な意味を持つ存在です。男の子には「将来の自分の姿」として、女の子には「異性との関係性のモデル」として映ることがあります。
そのため、父親が率直に感情を表現したり、失敗からの回復過程を見せることは、子どもの内面に深く作用します。
今日からできる父親の関わり方3つの実践
実践①:毎日10分の「パパ時間」を習慣にする
多忙なお父さんにとって、「十分な遊び時間を確保する」のは現実的に厳しい日もあるでしょう。
だからこそ、「毎日10分だけ」と時間を区切るのが効果的です。短くても「今日もおとうさんと時間を過ごせた」という充足感が子どもの中に蓄積されます。
遊びの種類は、折り紙、キャッチボール、トランプ、ブロックなど、手元にあるもので問題ありません。ポイントは、以下の3点だけです。
- 「これから10分、おとうさんと遊ぼう」と声をかけて始める
- その間はスマホやテレビを手放し、視線と身体を子どもに向ける
- 終了時に「今日はここまで。また明日続きをしようね」と約束して区切る
夫も初めはぎこちなさがありましたが、「10分なら自分にもできる」と感じたことで心理的負担が減り、結果として継続につながりました。
実践②:失敗を笑い合う“わが家の安心ルール”を作る
わが家では、就寝前に「今日のちょっと残念エピソード発表会」を開いていました。その日起きた、普段なら隠したくなるような小さな失敗を、少しユーモアを交えて共有します。
このときのルールは非常にシンプルです。
- 親も自分の失敗談を話す
- 誰がどんな内容を話しても、説教はしない
- 「それは問題だ」ではなく、「そういうこともあるよね」と受け止める
ある晩、夫が「重要な書類を忘れて慌てて取りに戻った」と話したとき、子どもたちは驚いた様子でした。
おとうさんも間違えることがあると知ることで、「失敗も話していい場所なんだ」と安心できたのだと思います。
実践③:習い事の送迎を“対話タイム”に変える
ピアノやスイミング、サッカーといった習い事は、送迎中心で”運転手の役割”と感じがちです。
しかし、行き帰りの車内や徒歩の時間にこそ、子どもの率直な気持ちが表れやすいものです。
夫は、娘の習い事の帰り道、こんな質問をしていました。
- 「今日、一番難しかった部分はどこ?」
- 「前回よりできるようになったことはあった?」
- 「先生に褒められたこと、何かあった?」
「楽しかった?」「どうだった?」と聞くと「うん」で会話が終わることが多いですが、「どこが大変だった?」「何ができるようになった?」と具体的に尋ねると、子どもは自分の感情を言葉にしやすくなります。
また、娘が習得したことを夫に教える「逆転先生ごっこ」もよく実践していました。これは、説明力と自己肯定感を同時に伸ばす方法として、非常におすすめです。
うまくいかない日の向き合い方と、関係を取り戻すコツ
ここまで読んで、「自分にはこんな対応はできない」「すぐイライラしてしまう」と心配になるお父さんもいるかもしれません。夫も何度も失敗し、そのたびに軌道修正してきました。
仕事で疲れ切って帰宅した日に、だらだらと宿題をしている息子に厳しい言葉をぶつけてしまったことがあります。
時間が経って自分の感情が先行したことに気づいた夫は、「さっきは怒鳴ってごめんね」と息子に謝りました。
息子は、「おとうさんも人間だから、怒るときもあるよね」とぽつり。親が誤ったときに謝る姿勢そのものが、子どもにとって貴重な学びになります。
育児で思うようにいかない日があるのは自然なことです。
重要なのは、「もうダメだ」と投げ出すことではなく、「次はどう接しようか」と考え直す態度を示し続けること。その姿勢そのものが、子どもにとっての手本になります。
結論:完璧さより“続けられる一歩”が親子の絆を育てる
“父親”だからといって、構える必要はありません。求められるのは、子どもの方を向いて一緒に時間を過ごそうとする小さな努力と、失敗してもやり直そうとする姿勢です。
今日から始められる一歩として、以下のようなことから試してみましょう。
- 就寝前に10分だけ、子どもの話を遮らずに聞いてみる
- その日起きた自分の失敗を、ひとつ家族に共有してみる
- 習い事の送迎の帰路で、「一番頑張ったところはどこ?」と質問してみる
どれも大掛かりなものではありませんが、こうした小さな行動の積み重ねが、子どもの非認知能力と自己肯定感をゆっくりと育んでいきます。
等身大の自分のままで、今日できる一歩を大切に重ねていきましょう。
【執筆者:まさこ先生】
元小学校教員。教諭歴40年。教育相談や保護者対応を通して、延べ4,000人以上の児童と関わってきました。家庭で実践できる親子の関わり方を発信しています。
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