「何度言っても聞かない」「言えば言うほど反発される」
そんな子育ての悩みを抱えていませんか?
特に夏休みのように長い時間を親子で過ごす期間は、普段よりも叱る場面が増えやすくなります。
でも本当は、叱らずに伝えられる方法があれば、子どもとの関係をもっと良くできるのではないか――。
この記事では、自分の失敗経験をもとに、「叱る前にできる3つの工夫」と、信頼関係を育てる親子コミュニケーションのコツをお伝えします。
なぜ“叱る”がうまくいかないのか
子どもの心に届かない理由
「何度言っても伝わらない」「叱っても同じことを繰り返す」
そんなとき、私たちは「もっと強く言えばいい」と思いがちです。
しかし、実際には叱る言葉が子どもの心に届いていないことが多いのです。
小学生はまだ自己調整力や論理的思考が発達途中であり、感情で反応しやすい時期です。
大人の厳しい言葉は、子どもにとっては“怖い”“怒られた”という印象だけが残り、伝えたかった本質は心に届かないまま終わってしまいます。
私の教え子でも、毎朝忘れ物を繰り返す子がいて、担任として繰り返し注意していました。
ある日「先生に怒られないように」と言っていたのを聞き、「自分の行動を見直すためではなく、怒られたくないから行動しているのだ」と気づかされました。
叱ることは短期的には効くかもしれませんが、内面の理解と成長にはつながらないのです。
叱ることで起こる「逆効果」
叱ることが習慣化すると、子どもは「叱られないために行動する」ようになります。これは、行動の動機が“外的圧力”になってしまうことを意味します。
自分で考え、判断する力を育てるには、安心して試行錯誤できる環境が必要です。
過去に、毎日のように宿題のことで叱られていた男の子がいました。
親は「しつけの一環」として叱っていたのですが、彼は次第に「どうせ怒られる」と無気力になり、ついには鉛筆すら持たなくなってしまいました。
「叱ること」は一見教育的に見えますが、頻度や内容によっては、子どもの学ぶ意欲や自己肯定感を奪ってしまうことがあります。
信頼関係が行動を変える
行動を変えるためには、まず関係を築くことが何よりも大切です。
子どもが「この人は自分のことを理解しようとしてくれている」と感じたとき、初めて親や教師の言葉に耳を傾けます。
私はあるとき、毎日友達にちょっかいを出していた男子児童に対し、「なんでそんなことするの!」と叱る代わりに、毎朝1分だけ彼と雑談することにしました。
「昨日の夜ご飯、何食べた?」「好きなテレビある?」そんな何気ないやり取りを2週間続けたある日、彼のトラブルがぱったりとなくなったのです。
信頼は、言葉ではなく日々の態度で築かれます。そして、その信頼があるからこそ、子どもは「叱られても大丈夫」「この人の話を聞いてみよう」と思えるようになるのです。
叱る前にできる3つの工夫
感情に名前をつけて整理する
親が子どもを叱るとき、その多くは「感情の高まり」が引き金になります。
イライラ、焦り、心配、落胆。
しかし、これらの感情は一度立ち止まって自分で言葉にしてみることで、ぐっと冷静になれるものです。
私は教員時代、授業がうまくいかなかった日や、保護者対応でストレスがたまった日ほど、家で子どもに厳しく当たってしまうことがありました。
ある日、夕食中に「なんでそんなこともできないの!」と感情的に言ってしまい、息子が黙って自室にこもってしまいました。
そのとき、自分が本当に言いたかったことは「あなたにもっと自信を持ってほしい」という願いだったと気づき、自己嫌悪に襲われました。
それ以来、私は「私は今、何を感じている?なぜそれを感じている?」と自問するようになりました。
この習慣は、感情に流されるのではなく、気持ちをコントロールする助けになっています。
「なぜ叱ろうとしているのか」を自分に問う
叱る前に「この行動を叱ることで、私は何を伝えたいのだろう?」と問いかけることで、ただ感情をぶつけるのではなく、目的を持って伝える姿勢が生まれます。
例えば、子どもがきょうだいを叩いたとき、「なんで叩くの!」と即座に叱りたくなります。
しかし、実際には「相手の気持ちを考えてほしい」「言葉で気持ちを伝える方法を覚えてほしい」という願いがあるはずです。
ある保護者の方は、息子さんが頻繁にゲームをする時間を守らないことに悩み、毎晩叱っていたといいます。
しかし、「どうして約束を守れないの?」と聞く代わりに、「ゲームが楽しいのはわかる。でも、時間を守ることは何のためだろう?」と対話を重ねることで、子どもが自分で時間を意識し始めるようになりました。
「叱る目的」を意識することで、親の言葉も、子どもの受け止め方も変わるのです。
時間をおいて冷静に関わる
どうしても感情が収まらないときは、あえてその場で叱らない選択肢を持つことも大切です。
私自身、あるとき子どもの嘘にショックを受け、即座に叱りたくなったことがありました。
しかし、ぐっとこらえて「今は冷静に話せないから、ちょっとだけ時間をおこう」と伝え、1時間後に落ち着いて話し合いました。
結果として、子どもは本当の気持ちを話してくれ、「信じてもらえないと思って嘘をついた」と打ち明けてくれたのです。
叱ることが目的ではなく、理解すること、関係を深めることが目的であるならば、「間を取る勇気」は、親子の絆を深める大きな一歩になります。
叱らずに伝えるための会話術
「どうして?」ではなく「どうしたの?」
つい子どもに「なんでそんなことしたの?」と問い詰めたくなる場面があります。
しかし、この「なんで?」は子どもにとっては責められていると感じやすい表現です。
代わりに「どうしたの?」「何があったの?」と聞くことで、子どもは自分の気持ちや状況を言葉にしやすくなります。
私の教え子で、授業中に突然泣き出した女の子がいました。
最初は「集中しなさい!」と叱りそうになりましたが、「何かあった?」と声をかけると、「お母さんが入院して心配で……」と小さな声で打ち明けてくれたのです。
叱ることではなく、気持ちに寄り添う言葉が、子どもの本音を引き出す力になります。
「どうしたらいいと思う?」と問いかける
子どもが何か失敗したとき、大人がすぐに「こうしなさい」と答えを与えてしまうことがあります。
しかし、それでは子どもは「指示がないと動けない」状態に慣れてしまいます。
大切なのは、子ども自身に考える余地を与えることです。
ある男の子が友達にきつい言葉を言ってしまい、相手を泣かせてしまったことがありました。
そのとき私は、「どうしたらよかったと思う?」と尋ねました。
最初は黙っていた彼も、「ごめんって言えばよかった」とぽつりと答えました。
自分で答えを見つけた経験は、叱られた記憶よりも深く心に残るものです。
親の役割は、子どもが自分で考え、行動できるように促す“ファシリテーター”であることだと思います。
「わかっているよ」と共感から始める
叱る前に、まず「気持ちはわかるよ」と共感の言葉を伝えるだけで、子どもの受け止め方が大きく変わります。
ある日、テストの点が悪かった息子がふてくされていました。
以前の私なら「もっと勉強しなさい」とすぐに言っていたでしょう。
でもその日は「がっかりしたよね。頑張ったのに悔しかったね」と声をかけました。
すると彼は「うん、がんばったけど、全部思い出せなかった」と自分から話し始めたのです。
共感は、子どもとの心の距離を一気に縮めてくれます。
「叱る」前に「共感する」。
この順番を意識することで、親子の会話は対立ではなく、理解と成長の場になります。
家庭でできるSEL的な声かけと関わり
SELとは何か
SEL(Social and Emotional Learning:社会性と情動の学習)とは、自分や他者の感情を理解し、健全な人間関係や意思決定を行う力を育てる教育アプローチです。
アメリカのCASEL(Collaborative for Academic, Social, and Emotional Learning)では、SELを以下の5つの能力領域に分けています
①自己認識、②自己管理、③社会的認識、④関係スキル、⑤責任ある意思決定
これらは家庭でも育むことができ、叱る場面こそSELの力を育てるチャンスです。
「今の気持ちはどんな感じ?」で自己認識を促す
子どもが感情的になったとき、「今、どんな気持ち?」と問いかけることで、自己認識を育てることができます。
感情に名前をつける力は、自分の気持ちを客観的にとらえる第一歩です。
例えば、きょうだい喧嘩をして泣いていた娘に、「怒ってるの?悲しいの?悔しいの?」と感情の選択肢を示すと、「悔しかった」と初めて気づき、気持ちを整理することができました。
このやりとりは、単なる感情の発散ではなく、自分の内面に目を向けるトレーニングにもなります。
「どうしてそう思ったの?」で社会的認識を広げる
子どもが他人に対してきつい言葉を言ったとき、単に「やめなさい」ではなく、「どうしてそう言ったの?」「相手はどう思ったかな?」と問いかけてみてください。
これは他者の視点を持ち、社会的認識を育てるSELの視点です。
ある保護者は、娘さんが友達にひどい言葉を言ってしまったとき、叱る代わりに「その子の気持ちはどうだったと思う?」と話し合いの時間をとったそうです。
娘さんはしばらく考え、「傷ついたかもしれない」と答え、次の日、自分から謝ることができたといいます。
これは叱って反省させる以上に、深い学びの経験だったでしょう。
「次はどうしたい?」で意思決定力を育てる
失敗やトラブルのあと、「じゃあ、次はどうしたい?」と問いかけることで、子どもは自分で選択する経験を積むことができます。
これはSELにおける「責任ある意思決定」の育成に直結します。私は教室でよく、「今日の友達とのことで、次はどうしたい?」と聞く時間を取っていました。
子どもたちは「謝りたい」「自分から声をかけたい」と自ら行動を選び、実行していきました。
大人が導くのではなく、子どもが自分で決める経験こそ、社会性と自立の基盤になるのです。
体験談:教室と家庭での気づき
教室での40年間が教えてくれたこと
私は小学校教員として40年間、子どもたちと向き合ってきました。多くの親が「叱らなければいけない」と思い込んでいることに、現場で何度も直面してきました。
あるとき、授業中に騒がしくしていた男子児童がいて、私が注意しようとした瞬間、ふと彼の表情に目が止まりました。
どこか不安げで、落ち着かない様子。後から聞くと、前日に両親が大きな喧嘩をしていたそうです。
その子に必要だったのは「叱られること」ではなく「安心できる環境」でした。
それから私は、「行動」ではなく「背景」に目を向けることの大切さを意識するようになりました。
自分の子育てを振り返って気づいたこと
家庭でも、私は多くの失敗をしました。
特に共働きだった頃は、忙しさにかまけて「叱ること」が子育ての中心になっていた時期もありました。
ある日、娘が学校から帰ってきて、ランドセルを放り投げて泣き出したことがありました。
私は「何やってるの!ちゃんとしなさい!」と怒鳴ってしまいました。
すると娘は、「もういい!」と部屋に閉じこもってしまいました。
あとから冷静になり、「さっきはつらかったね。ちゃんと話を聞くよ」と声をかけると、娘はポツリと「友達に無視された」と打ち明けてくれました。
あのとき、叱るよりも“聴く”ことを選べていたらと、今でも思い出すたび胸が痛みます。
親の「あり方」が変われば子どもの行動も変わる
叱ることよりも、共感すること、対話すること、選択肢を与えること。
これらを意識して接することで、子どもたちは驚くほど素直に、そして前向きに変わっていきます。
私は何百人もの子どもたちと向き合ってきましたが、一方的な叱責で変わった子はいませんでした。
変わったのはいつも、「聴いてもらえた」「気持ちをわかってもらえた」経験をした子どもたちでした。
親も教師も、完璧である必要はありません。けれど、「理解しようとする姿勢」こそが、子どもの心に届くいちばんの方法です。
まとめ:叱る前にできることは、実はたくさんある
叱らずに育てる力は誰にでもある
叱ることは決して悪いことではありません。しかし、叱る以外にもできる関わり方はたくさんあります。
子どもが失敗したとき、「なんでそんなことしたの!」と怒るのではなく、「どうしたの?」「気持ちはどうだった?」と問いかけることで、子どもの中にある“伝えたいこと”が見えてきます。
私たち大人の対応ひとつで、子どもの心は開かれたり閉じたりするのです。
夏休みこそ、親子関係を見直すチャンス
長い夏休みは、親にとっても子にとっても、普段よりも多くの時間を共有できる貴重な期間です。
だからこそ、つい叱る回数が増えてしまうこともあるでしょう。
そんなときこそ、今回紹介した「叱る前にできる3つの工夫」を思い出してみてください。
共感し、問いかけ、選ばせる——この3つがあれば、親子の信頼関係はぐっと深まります。
小さな会話が、大きな成長につながる
子どもは、大人が思っている以上に繊細で、感受性が豊かです。
親のひと言が、子どもの一日を明るくも暗くもします。
だからこそ、毎日の小さな会話こそが、子どもの心を育てる最大の教材なのです。叱らなくても、伝えたいことは伝えられます。
そしてその積み重ねが、子ども自身の“考える力”“感じる力”“選ぶ力”を育てていくのです。
ぜひ今日から、試してみてください。
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