「何度言っても聞かない」「言えば言うほど反発される」そんな子育ての悩みを抱えていませんか?
特に夏休みのように長い時間を親子で過ごす期間は、普段よりも叱る場面が増えやすくなります。でも本当は、叱らずに伝えられる方法があれば、子どもとの関係をもっと良くできるのではないか――。
この記事では、自分の失敗経験をもとに、「叱る前にできる3つの工夫」と、信頼関係を育てる親子コミュニケーションのコツをお伝えします。
叱っても伝わらない理由とは?子どもの心に届く関わり方
「何度注意してもなかなか伝わらない」「叱るほどに子どもが反発する」そんな悩みにぶつかることはありませんか。私自身、かつては「もっと厳しく言わなきゃ」と思い込んでいましたが、実際には強い叱責はかえって壁を作り、子どもの心からは遠ざかってしまうことが多かったのです。
まだ心も体も成長途中の小学生は、感情の揺れが激しく、注意された言葉より「怖い」「叱られた」という感覚が先に立ってしまいます。そのため、本当に伝えたい親の願いが届かず、子どもが戸惑うことも少なくありません。
また、叱ることが習慣化すると、子どもは「叱られないために行動する」ようになり、自分で考え、判断する力を育てることができません。実際に、毎日宿題で叱られていた男の子が無気力になり、鉛筆すら持たなくなったケースもありました。

先生に怒られないようにしなきゃ…。

自分の行動を見直すためではなく、
怒られたくないから行動しているんだね…。
そこで私が実践したのは、信頼関係を築くことでした。毎日友達にちょっかいを出していた男子児童に対し、叱る代わりに毎朝1分だけ雑談することにしました。

昨日の夜ご飯、何食べた?

好きなテレビある?
そんな何気ないやり取りを2週間続けると、彼のトラブルがぱったりとなくなったのです。子どもが「この人は自分のことを理解しようとしてくれている」と感じたとき、初めて親や教師の言葉に耳を傾けるようになります。

信頼は、言葉ではなく日々の態度で築かれます。そして、その信頼があるからこそ、子どもは「叱られても大丈夫」「この人の話を聞いてみよう」と思えるようになるのです。
叱る前に試したい!親の感情と伝え方を整える3つのステップ
自分の感情に意識を向ける
子育て中、ついカッとしたりイライラしたりすることは誰にでもあります。私も以前は、忙しい日の夕食時に子どもの些細な行動に強く叱ってしまい、あとで後悔することが多々ありました。特に若いころは、授業がうまくいかなかった日や、保護者対応でストレスがたまった日ほど、家で子どもに厳しく当たってしまうことがありました。
ある日、夕食中に感情的になってしまい、息子が黙って自室にこもってしまったとき、

なんでそんなこともできないの!
と言った自分の言葉を振り返り、

本当は、あなたにもっと自信を持ってほしいと言いたかったんだな…。
と気づきました。それ以来、そんなときは立ち止まり、

私は今、何を感じている?なぜそれを感じている?
と自問し、頭の中でその感情に名前をつけるようにしています。

「焦っている」「疲れている」と理解すると、不思議と冷静さが戻り、感情に振り回されずに子どもに向き合えるようになりました。
この習慣は、感情に流されるのではなく、気持ちをコントロールする助けになっています。
本当に伝えたいことを見極める
叱る前に「この言葉で何を伝えたいのか」を考えてみましょう。例えば、子どもが約束を守らないとき、「どうして守れなかったの!」とただ怒るのではなく、「約束を守ることの大切さを知ってほしい」という本音に焦点を当てると、伝え方も変わってきます。
「この行動を叱ることで、私は何を伝えたいのだろう?」と問いかけることで、ただ感情をぶつけるのではなく、目的を持って伝える姿勢が生まれます。
ある保護者の方は、息子さんがゲーム時間を守らないことに悩み、毎晩叱っていましたが、「どうして約束を守れないの?」と聞く代わりに、

ゲームが楽しいのはわかる。でも、時間を守ることは何のためだろう?
と対話を重ねることで、子どもが自分で時間を意識し始めるようになったそうです。「叱る目的」を意識することで、親の言葉も、子どもの受け止め方も変わるのです。
時間をおいて、冷静に接する
特に感情が高ぶっているときは、その場で叱るのをひと呼吸置くことも効果的です。私自身、かつて子どものいたずらにすぐに叱りつけたことがありましたが、後で話し合う時間を設けるようにしてからは、お互いに落ち着いて本音を伝え合えるようになりました。
「冷やす時間を持つ」という小さな工夫で、親子の言葉がけがぐっと前向きになることを実感しています。どうしても感情が収まらないときは、あえてその場で叱らない選択肢を持つことも大切です。

叱ることが目的ではなく、理解すること、関係を深めることが目的であるならば、「間(ま)を取る勇気」は、親子の絆を深める大きな一歩になります。
叱らずに伝える親子コミュニケーション術|心を開く言葉の選び方
「どうして?」ではなく「どうしたの?」
「どうして?」が「どうしたの?」に変わるだけで、子どもの心はずっとほぐれます。昔、学校で泣いていた子がいて「なんで泣いてるの?」と聞こうとした瞬間、一度グッと言葉を飲み込み、「何があったの?」と優しく尋ねてみました。

何があったの?
すると、その子は、

お母さんが入院して心配で……。
と打ち明けてくれました。

「なぜ?」という疑問が詰問のように響きやすい一方、「どうしたの?」は子どもに安心感を与え、自分の気持ちを整理して伝える助けになります。
「どうしたらいいと思う?」と問いかける
子どもが何か失敗したとき、大人がすぐに答えを与えてしまうことがあります。

こうしなさい!
しかし、それでは子どもは「指示がないと動けない」状態に慣れてしまいます。大切なのは、子ども自身に考える余地を与えることです。
ある男の子が友達にきつい言葉を言ってしまい、相手を泣かせてしまったことがありました。

どうしたらよかったと思う?

ごめんって言えばよかった
自分で答えを見つけた経験は、叱られた記憶よりも深く心に残るものです。親の役割は、子どもが自分で考え、行動できるように促す“ファシリテーター”であることだと思います。
「わかっているよ」と共感から始める
叱る前に、まず「気持ちはわかるよ」と共感の言葉を伝えるだけで、子どもの受け止め方が大きく変わります。
ある日、テストの点が悪かった息子がふてくされていました。以前の私なら「もっと勉強しなさい」とすぐに言っていたでしょう。でもこの時は違いました。

がっかりしたよね。頑張ったのに悔しかったね

うん、がんばったけど、全部思い出せなかった。
共感は、子どもとの心の距離を一気に縮めてくれます。

「叱る」前に「共感する」。この順番を意識することで、親子の会話は対立ではなく、理解と成長の場になります。
子どもの感情と社会性を伸ばす声かけの工夫
「今の気持ちはどんな感じ?」で自己認識を促す
子どもが感情的になったとき、「今、どんな気持ち?」と問いかけることで、自己認識を育てることができます。感情に名前をつける力は、自分の気持ちを客観的にとらえる第一歩です。
例えば、きょうだい喧嘩をして泣いていた娘に、感情の選択肢を示すと、自分の気持ちに初めて気づき、気持ちを整理することができました。

怒ってるの?悲しいの?悔しいの?

悔しかった・・・

このやりとりは、単なる感情の発散ではなく、自分の内面に目を向けるトレーニングにもなります。
「どうしてそう思ったの?」で社会的認識を広げる
子どもが他人に対してきつい言葉を言ったとき、単に「やめなさい」ではなく、「どうしてそう言ったの?」「相手はどう思ったかな?」と問いかけてみてください。
ある保護者は、娘さんが友達にひどい言葉を言ってしまったとき、叱る代わりに話し合いの時間をとったそうです。

その子の気持ちはどうだったと思う?

傷ついたかもしれない。
次の日、娘さんは自分から謝ることができたといいます。これは叱って反省させる以上に、深い学びの経験だったでしょう。
「次はどうしたい?」で意思決定力を育てる
失敗やトラブルのあと、「じゃあ、次はどうしたい?」と問いかけることで、子どもは自分で選択する経験を積むことができます。
私は教室でよく、友だち同士でトラブルがあったとき、

今日の友達とのことで、あなたはどうしたい?
と投げかけていました。すると、子どもたちは自ら行動を選び、実行していきました。

あやまりたい!

大人が導くのではなく、子どもが自分で決める経験こそ、社会性と自立の基盤になるのです。
教室と家庭での実体験|叱るより“聴く”が子どもを変える理由
教室での40年間が教えてくれたこと
私は小学校教員として40年間、子どもたちと向き合ってきました。多くの親が「叱らなければいけない」と思い込んでいることに、現場で何度も直面してきました。
あるとき、授業中に騒がしくしていた男子児童がいて、私が注意しようとした瞬間、ふと彼の表情に目が止まりました。どこか不安げで、落ち着かない様子。後から聞くと、前日に両親が大きな喧嘩をしていたそうです。
その子に必要だったのは「叱られること」ではなく「安心できる環境」でした。それから私は、「行動」ではなく「背景」に目を向けることの大切さを意識するようになりました。
自分の子育てを振り返って気づいたこと
家庭でも、私は多くの失敗をしました。特に共働きだった頃は、忙しさにかまけて「叱ること」が子育ての中心になっていた時期もありました。
ある日、娘が学校から帰ってきて、ランドセルを放り投げて泣き出したことがありました。

何やってるの!ちゃんとしなさい!

もういい!!
あとから冷静になり、

さっきはつらかったね。ちゃんと話を聞くよ。
と声をかけると、娘はポツリと

友達に無視された…。
と打ち明けてくれました。あのとき、はじめから、叱るよりも“聴く”ことを選べていたらと、今でも思い出すたび胸が痛みます。
親の「あり方」が変われば子どもの行動も変わる
たくさん注意しても子どもが変わらないのは、叱ることが目的になってしまっている場合が多いです。私の長年の経験では、子どもが本当に変わるのは、大人がまず耳を傾け、心から理解しようとしたときでした。
ある男の子は、かつて問題行動が多かったものの、日々の対話で「自分の気持ちが伝わった」と感じてからは、驚くほど意欲的に努力を始めました。大切なのは「大人が完璧になること」ではなく、「子どもに寄り添う姿勢を持ち続けること」だと、実感しました。
叱るだけじゃない!親子の絆を深める関わり方まとめ
叱ることは時に必要ですが、それだけが子育ての答えではありません。子どもが失敗したとき、まずは「どうしてなんだろう?」を責めるのではなく、「どんな気持ちだったの?」と静かに話を聞いてみましょう。
そうすることで、子どもは自分の心の声を丁寧に伝えられ、大人はその気持ちをしっかり受け止められます。ちょっとした対話の積み重ねが、子どもの心を開き、親子の絆を深めていくのです。
この夏休みは、そんな「伝え合う時間」をぜひ増やしてみませんか。
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