子どもと歩いた歴史探訪で自由研究が「考察レポート」に変わる!親子フィールドワークの4つの視点

親も夢中に!歴史散歩自由研究格上げポイント4つ 学びと自由研究

「おかあさん、このあたりにアイヌの人たちの遺跡があるって本当?」

息子のその一言が、教員として20年以上歴史を教えてきた私の価値観を、根底から揺さぶることになろうとは。

自由研究といえば実験や観察など理系ばかり選んでいた息子が、初めて歴史に関心を示したことが嬉しくて、私は遺跡探しを二つ返事で承諾しました。

軽い気持ちで出発したこの「歴史散歩」でしたが、帰ってくる頃には、私の方がすっかり夢中になっていたのです。

教室で何年も教えてきたはずの歴史が、その場所に立つとまったく違って見える。

その衝撃が、私の「教える」ということへの考え方を変えていくことになりました。

筆者プロフィール

40年間、大都市近郊の小学校5校で約4000人の児童と向き合ってきた元小学校教諭。
教育相談担当として5年間、不登校や生活リズムの問題など年間約30件のケースに寄り添い、子どもと保護者の心に深く関わる。
PTA担当の3年間では、多くの保護者の悩みや喜びを共有。
夫も小学校教員という共働き家庭で2児を育てた経験から、「忙しい親だからこそできる子育て」を実践と教育現場の両面から伝える。

「わざわざ来る必要があった?」最初はがっかりだったチャシ跡

いろいろ調べてみると、自宅から自転車で15分ほどの場所に、アイヌの遺跡が発掘された場所が見つかりました。

学校だけでは味わえない“土地の歴史を五感で感じる体験”は、家族にとっても貴重な学びのチャンスです。

夏休みの一日を使って、家族で”歴史を歩いて体感する日”にしようと、リュックに飲み物とおにぎり、メモ帳を入れて自転車で出発しました。

筆者(元小学校教員)の解説・アドバイスを表すイラスト
解説・アドバイス

この目的地は”わかりづらい”と同僚に聞いていました。

そういう場合は、事前に地元の教育委員会に問い合わせ、場所を確認するとよいです。

今は丘全体が公園になっている場所につき、階段を昇り、神社に近い緑に囲まれた広場に着きました。

公園入口から神社に続く階段

公園入口から神社に続く階段

初めて訪れたアイヌのチャシ*は、「衝撃」のひとこと。

そこは案内板さえないただの広場。私は唖然として、正直、こう思ってしまいました。

筆者が心の中で思ったことを表すイラスト
わたし

わざわざ来る必要があったのだろうか…。

発言する息子のイラスト
むすこ

ここに砦があったの?本当に?

息子が尋ねてきたので、私はスマートフォンの検索結果を見せました。

発言する息子のイラスト
むすこ

こんなに大事な場所だったの?

発言する娘のイラスト
むすめ

今は広場になっちゃってるね。

筆者の感想を表すイラスト
わたし

子どもたちも拍子抜けした様子でした。

遺跡が発掘されたあたりは今はただの広場

遺跡が発掘されたあたりは今はただの広場

発掘されたあたりの今の様子

発掘されたあたりの今の様子

*チャシ
 アイヌの人々が築いた砦や柵囲い、祭祀・見張り場など多目的に利用した場所

【核心の気づき】「なぜ?」その問いが、教科書の知識を体感に変えた瞬間

しかし、しばらく立っていると、意識の変化が。舗装された広場に静寂が満ちて、木々の間を吹き抜ける風の音だけが聞こえます。

見渡すと遠くに見える山々。なんだか神聖な雰囲気が漂い、ここが当時の人々にとって特別な場所だったことを、肌で感じることができたのです。

チャシ跡からの遠景

チャシ跡からの遠景

そのとき、息子がつぶやきました。

発言する息子のイラスト
むすこ

ねえ、なんでここにチャシを作ったんだろう?

その素朴な問いかけが、私の心を動かしました。

目に見える遺構は何もないけれど、確かにここに人々の営みがあったのだと、私の中に不思議な感覚が生まれてきました。

何より実感できたのは、「時間の厚み」。数百年前、この同じ土地に人々が立ち、同じ風を感じ、同じ景色を見ていた。その事実が、頭ではなく体全体で理解できたのです。

教員として長年、年号や出来事の因果関係を教えてきた私にとって、歴史とは教科書のページの中にあるものでした。

でも、息子の「なぜ」という問いこそが、学びの出発点なのだと、その瞬間気づいたのです。

なぜ私は今まで気づかなかったのでしょう。教科書の平面的な知識と、五感で感じる現地での学び

その圧倒的な違いに、深く考えさせられました。

教員時代、私は生徒たちに「調べ学習」を指導してきましたが、多くの場合、それは「情報を集めてまとめる作業」で終わっていました。

しかし、本当に学びが深まるのは、息子のように「自分なりの疑問」を持てたときなのだと、この体験を通して気づいたのです。

自由研究にも役立つ!学びを深める「3つのリサーチクエスチョン」

この歴史散歩を単なる「調べ学習」で終わらせないために、3つの視点から問いを立てることにしました。

地形の問い:「なぜ、この場所なのか?」

「なぜこの場所を選んだのだろう?」まずは地形についての観察が始まりました。

緩やかな斜面、背後の林、視界の開け方。

今は生い茂った木と建物に遮られていますが、当時はどうだったのだろう。

発言する息子のイラスト
むすこ

遠くまで見渡せたんじゃない?

チャシ跡付近から望んだ風景

チャシ跡付近から望んだ風景

地形を「防衛」や「見張り」の視点で見ることで、ただの風景が重要な意味を持つ場所に変わったのです。

生活の問い:「ここでどんな暮らしをしていたのか?」

次は、日常生活。「どんな暮らしをしていたのだろう?」という問いです。

チャシ跡の眼下には昔”コタン”と呼ばれる村があったはずです。

近くを流れる川、豊かな森。

近隣の人が涼を求めてやってくるチャシ跡近くを流れる川

近隣の人が涼を求めてやってくるチャシ跡近くを流れる川

秋にはサクラマスが遡上する小さな滝

秋にはサクラマスが遡上する小さな滝

発言する息子のイラスト
むすこ

あの川で水を汲んでいたのかな。

発言する娘のイラスト
むすめ

この場所で儀式をしたのかな

その周辺にあった日々の暮らしを想像することで、歴史に人間の顔が見えてきます。

現代とのつながりの問い:「今の私たちとどうつながっているのか?」

最後に、最も大切な問いです。「この歴史は、今の私たちとどうつながっているのだろう?」

この問いは、歴史を「昔にあったこと」から「今を生きる私たちの話」に変えてくれます。

息子が帰り道で言いました。

発言する息子のイラスト
むすこ

今、ぼくたちがここに住めているのは、昔の人たちが大切にしていたものがあったからなのかな。

その言葉に、私は深く頷きました。

筆者(元小学校教員)の解説・アドバイスを表すイラスト
解説・アドバイス

問いがあることで、ただ「見て終わり」ではなく、「考え続ける学び」になるのです。

「生きた歴史」を記録する:親子の対話と記録の現場テクニック

子どもたちも、歩きながら「土地の記憶」を感じ取る体験に、すっかり夢中になっていきました。

古い道や神社、石碑を見つけるたびに、子どもたちは考えるようになりました。

発言する息子のイラスト
むすこ

誰が通っていたのかな。

発言する娘のイラスト
むすめ

ここでどんな祈りが捧げられていたんだろう。

地図で調べる、現地で確かめる、写真を撮る──それらの行動を通じて、子どもたちにとって歴史は「過去の知識」ではなく「今につながるストーリー」に変わっていったのです。

散歩中の記録テクニック

せっかく歩いて学んだ体験は、自由研究としてまとめることもできます。ここでは、記録と対話の具体的なテクニックを紹介します。

メモの取り方:迷子にならない「質問6レンジャーカード」活用術

私が息子に渡したのは、小さなメモ帳と、”質問6レンジャーカード”です。

これは、いわゆる5W1Hの6つの視点を、戦隊ヒーローの6色に置きかえたわが家のオリジナル。

筆者オリジナル質問6レンジャーカード

筆者オリジナル質問6レンジャーカード

散歩中、何か気になるものを見つけたら、このカードにメモをします。

赤(いつ):いつの時代に使われていたのか
青(どこで):どの辺りにチャシがあったのか
ピンク(誰が):誰がここを使っていたのか
黄(何を):何が行われていたのか
緑(なぜ):なぜここにチャシを作ったのか
シルバー(どのように):どんな造りだったのか

このメモは、後で自由研究にまとめる際の「宝物」になります。

大切なのは、完璧に書くことではなく、その場で感じたことを自由に書き留めることです。

写真の撮り方:「比較」と「子どもの目線」を意識する

写真は、子ども自身に撮影させるのがポイントです。私がアドバイスしたのは2つの視点です。

  • 「比較の視点」同じ場所を、引きで撮る写真と寄りで撮る写真の両方を撮ること。全体の雰囲気と、細部の発見の両方が記録できます。
  • 「自分の目線の写真」:大人が撮る写真と、子どもが撮る写真は違います。子どもが「面白い」と思った角度で撮影することで、子ども自身の発見が記録されます。

息子は、広場に立つ大きな木を見つけて、何枚も写真を撮っていました。

発言する息子のイラスト
むすこ

この木、昔からここにあったのかな。昔の人も見ていたかもしれない。

子どもの気づきを引き出す「開かれた問い」の技術

対話のコツ:「なぜそう思ったの?」と親が正直に「わからない」と言う勇気

記録と同じくらい大切なのが、親子の対話です。

教室ではどうしても「教える」ことに集中しがちでしたが、親としての歴史散歩では「引き出す」ことを意識しました。

最も効果的なのは、「なぜそう思ったの?」と聞き返すことです。

発言する息子のイラスト
むすこ

ここは見晴らしがいいね。

子どもに話しかける筆者を表すイラスト
わたし

なぜそう思ったの?

発言する息子のイラスト
むすこ

だって、あっちの方まで見えるから、敵が来たらすぐわかるよね。

この対話を通じて、息子は自分の気づきを言葉にし、さらに深く考えることができたのです。

他にも効果的だった問いかけ

  • 「もし自分が昔の人だったら、どう感じるかな?」
  • 「今と昔で、何が変わったと思う?何が変わってないと思う?」
  • 「他に気になることはある?」
筆者(元小学校教員)の解説・アドバイスを表すイラスト
解説・アドバイス

こうした問いは、子どもの想像力と思考力を引き出します。また、「おかあさんもわからないから、一緒に調べてみようか」と正直に言うことが、子どもの探究心を育てます

帰宅後の整理:「体験→発見→疑問」の3ステップで次に繋げる

家に帰ったら、その日のうちに記録を整理します。わが家では、次の3ステップで短くまとめました。

体験:今日、何を見て、何を感じたか
発見:そこから何に気づいたか
疑問:もっと知りたいことは何か

この「疑問」が、次の調べ学習のテーマになります。

子どもについて語る筆者を表すイラスト
わたし

息子の場合、「アイヌの人たちは、どんな道具を使っていたのか」「チャシは、その後どうなったのか」という疑問が生まれ、それが図書館での調べ学習につながりました。

どんな地域にも眠る「地域の謎」: 地元で歴史の手がかりを見つける5つの視点

「うちの近くには、遺跡も古戦場跡も城跡もない」と思う方もいるかもしれません。

でも、実はどんな地域にも”歴史の手がかり”はあります。

神社やお地蔵様、古い用水路、昔ながらの商店街など、少し視点を変えるだけで、たくさんの発見があります。

たとえば、神社の石碑には建立年が刻まれていることが多く、時代を感じることができます。

わが家の近所の神社の石碑には、地域の人々が寄付をした名前が刻まれています。

発言する娘のイラスト
むすめ

昔の人たちはみんなでこの神社を大切にしていたんだね。

また、今も残る古い用水路を辿ると、昔の村の範囲や水の流れの工夫が見えてきます。

古い家の瓦や格子窓、蔵の壁も当時の職人の工夫が見られる貴重な資料です。

チャシ跡訪問の帰り道で見つけた軟石を使った昭和7年建設の民家の門柱

チャシ跡訪問の帰り道で見つけた軟石を使った昭和7年建設の民家の門柱

地名にも注目してみてください。

発言する息子のイラスト
むすこ

この辺りに『ペッ』って地名があるよ。

アイヌ語の地名は、川(ペッ)や沼(トー)、岬(エチ)など、地理的な特徴に由来するものが多いので、当時の地形を推測する手がかりになります。

そして、散歩の途中で高齢の方に出会ったら、「昔はこの辺りに何がありましたか?」と聞いてみるのもおすすめです。

ある日、神社の近くで草むしりをしていたおじいさんに声をかけると、「子どもの頃、ここで遊んでいたよ。

昔はもっと木が多くてね」と当時の様子を教えてくれました。

その話を聞いて、息子はつぶやきました。

発言する息子のイラスト
むすこ

歴史って、教科書だけじゃないんだね。

城跡や古墳がなくても、学校の敷地、公園、道路、橋。それらすべてに歴史があります。

チャシ跡を訪れた帰り道に見つけた小学校の石碑

チャシ跡を訪れた帰り道に見つけた小学校の石碑

「今ここにあるものが、昔はどうだったのか」と考える視点を持つだけで、どんな場所も歴史散歩のフィールドになります。

「歴史の手がかり」を見つける5つの視点

  • 神社・お寺・石碑を観察する
  • 古い用水路や井戸を探す
  • 古い家並みや建物の痕跡を見る
  • 地名に注目する
  • 地域の人の記憶を聞く

最高の教育は「親が学ぶ姿」: 自由研究から始まったわが家の学びの広がり

アイヌのチャシ跡を訪れたあの日から、わが家には確かな変化が生まれました。

息子は地図を見ることが好きになり、等高線を見ながら「ここは高い場所だから、昔は見張り台があったかもしれない」と想像するようになりました。

娘は、何気なく通り過ぎていた神社の前で立ち止まり、「ここにいつからあるんだろう」と石碑を覗き込むようになりました。

そして何より、私自身が変わりました。教員として「教える側」にいた私が、子どもたちと一緒に「学ぶ側」になったのです。

「知らない」と正直に言えるようになり、「一緒に調べてみよう」と言えるようになりました。

その姿勢こそが、子どもたちの探究心を最も育てたのではないかと思います。

わが家の”歴史散歩”はその後も続き、その後は家族の恒例行事となりました。

夏休みの一日、親子で少し外に出て、歴史の残る場所を歩いてみる。

それだけで、家族の時間が豊かになります。

今年の夏は、ぜひ親子で”時間を歩く旅”に出かけて、”わからない”を楽しみましょう。

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