親子で深める読書感想文体験~夏休みの小さな日常から生まれるオリジナルの書き方ガイド

学びと自由研究

毎年夏休み、わが家のリビングには本と原稿用紙が並びます。息子は「どんな感想を書けばいいかわからない」と悩み、娘は好きな物語の場面を何度も話してくれます。

親として急かすのではなく、子どもが自分の言葉を見つける時間にそっと寄り添うことの重要性を、私は二人の子どもから学びました。

私自身、長年小学校で作文指導をしてきた経験と、二人の子どもを育てる親としての立場があります。その両方を行き来するなかで気づいたのは、読書感想文はただの宿題ではなく、子どもが自分の思いや考えを言葉にして表現する、貴重な機会だということです。

 息子の読書感想文奮闘記:親の問いかけが逆効果だった理由

あれは息子が小学3年生のときのことです。彼は本を読むのが大好きで、夏休み初日には何冊もの本を用意しました。

彼が選んだのは、探偵が事件を解決していくワクワクする物語でした。主人公が家族や友達と協力しながら困難に立ち向かう場面に心を動かされたようでした。

しかし、休みが半分を過ぎたころ、彼は机に向かってうつむき、原稿用紙を前に黙り込んでいました。「おかあさん、どう書けばいいかわからない」と小さく呟く声に、私は反射的に質問を投げかけてしまいました。

むすこ
むすこ

おかあさん、どう書けばいいかわからない…。

まさこ先生
まさこ先生

主人公の気持ちは?どの場面が一番心に残った?

すると息子は黙ったまま、鉛筆を置きました。このとき、私は無意識のうちに「正解」を求めてしまっていたことに気づきました。

子どもは「正しい答え」を探そうとしますが、読書感想文に正解はありません。親が質問攻めにすると、子どもは「ちゃんと答えなきゃ」とプレッシャーを感じ、かえって言葉を失ってしまうのです。

重要なのは、答えを引き出すことではなく、子どもが自由に話せる安全な空間を作ることでした

翌日、私は息子が読んでいた本を少しだけ読み、朝食時にそっと話題を出してみました。

「昨夜のあの場面、探偵になったところ、わくわくしたね」と言うと、彼の目がぱっと輝きました。「うん!面白かったよ。犯人が意外な人でびっくりしたんだ」と話し始め、硬かった表情がほぐれ、自然に会話が生まれたのです。

まさこ先生
まさこ先生

昨夜のあの場面、探偵になったところ、わくわくしたね。

むすこ
むすこ

うん!面白かったよ。犯人が意外な人でびっくりしたんだ!

まさこ先生
まさこ先生

「書かせなきゃ!」と焦らず、まずは子どもと一緒に読書を楽しみましょう!

娘と感情を「色」で表現する:言葉のタネを見つける方法

一方、娘の場合は少し違うアプローチを取りました。

彼女が選んだのは、家族や仲間の愛情や葛藤を描いたファンタジー小説でした。私は彼女が読んでいた小説を私も読み、リビングで並んで座り、静かに「本の感想を聞かせて」と尋ねました。

娘は言葉を選びながら、「主人公が友達にひどいことを言われて泣いている場面、見ていてつらかった」と答えました。私が「その後どうなった?」と問いかけると、彼女は主人公の行動と自分の気持ちを重ね、「勇気を出して謝ったんだ」と話しました。

まさこ先生
まさこ先生

本の感想を聞かせて。

むすめ
むすめ

主人公が友達にひどいことを言われて泣いている場面、

見ていてつらかった。

言葉だけでは表現しにくい感情を文章にするために、私たちは色鉛筆でその場面の感情を塗り分ける遊びを取り入れました。

悲しい場面を青色で、勇気を出す場面を力強い赤色で表現することで、彼女は言葉にできない心の動きを「形」にすることができました。この遊びを通して、感情が自然に文章化されるようになったのです。

まさこ先生
まさこ先生

「色」を使うと感情表現しやすくなります。

読書感想文を成功させる3つのステップ:親がすべきこと

私たちの経験から、読書感想文は以下の3つのステップで進めるのが効果的だと感じています。大切なのは、親が先生になるのではなく、子どもの伴走者になることです。

準備:言葉のタネを見つける

まず、「書く」前に「話す」時間を設けましょう。物語を絵や図にしたり、一場面を声に出して演じたりするのも良い方法です。

息子が探偵物語で悩んでいたとき、私は「どう書けばいいかわからない」という彼を急かすのではなく、「自分だったらこの場面でどう感じる?」と問いかけました。

すると彼は「探偵の正体が分かったとき、びっくりしたんだ」と話し始めました。この「びっくり」という感情こそが、彼の文章のタネになりました。

 執筆:親子で骨格を作る

言葉のタネが揃ったら、付箋や模造紙を使って文章の設計図を作りましょう。

この方法は、単に頭の中を整理するだけではありません。白紙の原稿用紙を前にすると、「最初の一文をどう書こう」というプレッシャーに襲われますが、付箋を使えば、思いついたことを自由に書き留め、後から順番を入れ替えることができます。

これにより、子どもは「言葉のパズル」を楽しむ感覚で、構成を練ることができたのです。

息子は模造紙に「犯人の正体が分かった場面」や「家族と推理ゲームをした経験」などを付箋に書き出し、それをどういう順番で書けば一番ワクワクする文章になるかを試行錯誤しました。

設計図という「道しるべ」があることで、彼は迷うことなく、自らの言葉で文章を組み立てていきました。

完成後:対話で推敲する

文章を書き終えたら、家族で声に出して読み合いましょう。推敲というと、誤字脱字を直したり、表現をより良くしたりする「作業」と捉えがちです。しかし、私たちが大切にしたのは「親子の対話」でした。

息子が書き上げた文章を不安げに持ってきたとき、私は「主人公の驚きがすごくよく伝わったよ」と具体的に褒めました。

すると彼の目に自信が戻り、自ら「もっとこの部分を工夫したい」と声を上げてくれました。

娘が文章表現に悩んでいるときには、「この表現はすごく共感できるけど、別の言葉も試してみようか」と声をかけると、彼女は自ら辞書を引き、新しい言葉を探し始めました。

どうしてこの言葉を選んだの?」と問いかけることで、子どもたちは言葉を選んだ理由を話してくれます。その過程で、自分の考えが整理され、自己表現力が育まれるのです。

成長段階別アプローチ:子どもの年齢に合わせた関わり方

子どもの年齢や発達段階に合わせて、読書感想文へのアプローチを変えることが大切です。同じ方法がすべての年齢に通用するわけではありません。

低学年(小学1〜2年生)

「書く」ことに抵抗がある時期です。まずは「おしゃべり」で物語を共有しましょう。

絵日記のように好きな場面を絵に描いてもらい、その絵について話すだけでも十分な感想文になります。

わが家では、娘が低学年の頃に、物語の登場人物になったつもりで声を出し、セリフを演じる遊びを取り入れました

これにより、子どもは楽しんで物語の世界に入り込むことができ、自然と感情が言葉としてあふれてきました。

中学年(小学3〜4年生)

物語の背景や登場人物の心情を深く掘り下げられるようになります。

この時期の息子には、物語に登場する探偵や歴史上の人物について、親子で一緒に調べる時間を作りました。本の内容を深めるための「小さな探究活動」です。

また、「もし自分が主人公だったらどうする?」と問いかけることで、物語を自分ごととして捉え、より具体的な言葉で表現できるようになりました

高学年(小学5〜6年生)

自分の意見や社会的なテーマと結びつけて考える力が育ちます。物語の「正義」や「友情」といったテーマについて、親子で議論してみましょう。

娘が読んだファンタジー小説の「家族の愛情」について話したとき、彼女は「お父さんは忙しいけど、本当は優しい」と、物語の登場人物自分の父親を重ねて話してくれました。

これは、自分の体験と物語を結びつけ、深く考える力が育っている証拠です。

親子の学びの宝物:読書感想文で育む「書く力」

読書感想文は、単なる夏休みの宿題以上の意味を持つのかもしれません。それは、子どもが本と向き合い、心を動かされ、考えを巡らせる貴重な時間です。

わが家では、この体験をきっかけに「物語を楽しむワーク」と「達成後の共有タイム」を習慣にしました。

親子で語り合う時間を持つことで、子どもは書くことに前向きになり、親は成長を間近で感じられます。

小さなつぶやきや、言葉を探すもどかしい瞬間に触れるたび、子どもの成長をそばで感じ、親としての気づきも増えていきます。

こうした時間を重ねることで、読書感想文は「書く力」を育むだけでなく、親子の関係を豊かにする特別な機会になるのです。

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